上毛新聞12/19(土)に寄稿しました。

どうも、こちらではご無沙汰しております。

白川昌生さんのおかげで、上毛新報12/19(土)に、ザムルンク・シーメンス・ベルリンというプロジェクトについて寄稿させていただきました。入手可能な方が居られましたらぜひともチェックしてほしいです。

本稿では、最近の自分のテーマともいうべき主張、「アーティストはものを作るだけの存在ではなく、それを通じて思想の片鱗を提示する存在である」という様な事について触れています。参考まで、以下に下書きを掲載しておきます。




本稿ではベルリンでは目にするが日本で見かけない類いの展覧会を例として提示し、今後の美術の可能性の一つとして考えてみたい。その為のキーワードとしてInterdisziplinarität を挙げる。この言葉は日本語では「学際」「専門間」と訳され、幾つかの異なる専門領域の人が、従来とは異なった観点、発想、技術等で以て新たな成果を生み出す目的で協業する事を意味する。近年ベルリンではこのような協業体制で企画された注目すべき展覧会がいくつか行われた。その中でも個人的に興味深かったザムルンク・シーメンス・ベルリンというプロジェクトを紹介してみたい。

http://www.sammlungsiemensberlin.de/


このプロジェクトはアンチェ・シファースとトマス・シュプレンガー が2006年シーメンスに招待されて始まった。彼らは、シーメンス・ベルリンの従業員の協力の下、公私にわたる企業に関連する品々を集めアーカイブを作り、展覧会を2007年5月に開催した。会場にはシーメンス製品のパンフレット、雇用者のみが目にしていたであろう工場の中の写真、図面、企業の紹介フィルムなど企業活動に関する様々な資料から、日記や集合写真、ホームムービーに至る個人的なコレクションまでが展示されていた。それらは世界市場を席巻する製品や圧倒的な技術力に言及している一方で、機械の持つ機能美、70年代、80年代のレトロスペクティブな趣味のデザインやファッションをエッセンスとして取り入れていた。つまり、無味乾燥な出来事を羅列しシーメンス・ベルリンの歩みを見せるのではなく、ドローイング、映像、サウンドそして物品を提示する事により、シーメンス・ベルリン、そして従業員達の生き生きとした姿を描き出していたのだ。
このような展覧会は次の二つの理解があったからこそ成立したと言える。まず現代美術の機能的側面、言い換えると鑑賞者が展覧会に足を運んで何を目撃し何を体験するかを意図的に設計しているという側面、が理解されている事。つぎに、アーティストはものを作るだけの存在ではなく、それを通じて思想の片鱗を提示する存在であり、そこに作家性が見い出されている、という理解だ。これら二つの理解が、企画者、作家、そして協力者にあるからこそ、アーティストならではの発想や視点が尊重され、シーメンス・ベルリンの従業員と協業関係を築き、プロジェクトが成功したのではないだろうか。