ピエール・ユイグ『第三の記憶』

KWの"History will repeat itself"という展覧会で見た作品。この他この展覧会には読み解く力の要るインスタレーションや映像作品を中心とした様々なマスターピースが展示されていた。展示もさることながら論文や企画が良く練られていてよく出来た展覧会だった。今回はこの作品にのみ絞った解説を書いてみようと思う。


ピエール・ユイグの作品『第三の記憶』は、1972年8月22日にニューヨーク、マンハッタンで発生した銀行強盗事件を題材に、人がどのように記憶を重ね、追体験して行くか、という事が功名に再現されていた。それはあたかも黒沢明が映画『羅生門』で見せた手法、様々な語り部がそれぞれの立場から少しずつ異なった角度で事件を再現していく様を連想させる。

展示はおおきく3つのパートに別れる。
1.新聞や雑誌を拡大コピー等12枚のポスターを掲示した部分、2.壁一面の2つのスクリーンに並行して映像を上映する部分、3.そしておおよそ14インチの小型テレビに映像が映し出される部分。


第一のパートには、事件当初の様子を報道する一般的な新聞、大げさに報道する大衆娯楽新聞、そして事件の詳細を細かく追った雑誌の記事が掲載されている。

一般的な新聞には、犯行現場と時刻、現場周辺の様子等が手短に、かつ的確に記述されていた。それとは対照的に大衆娯楽新聞には、少ない言葉数ながら大きな文字と写真で、その当時の恐ろしい様子をあおり立てていた。雑誌『Life』には、加害者の背景、とりわけ性的志向の悩み等、当時の彼の様子が一歩踏み込んで記述されていた。

その先には、この事件を題材としたアル・パチーノ主演の映画『狼たちの午後』の脚本の表紙、好意的な映画評、映画のポスターが掲示されていた。ちなみに、この映画は先のLife誌の記述にインスパイアされ脚本が書かれたという。その脚本の表紙に記されている出来上がった日付を確認していくと、おおよそ2年の歳月が経っており、そこから公開まで1年経っている事が分かる。このことからいかにその事件が当時の世相にとってセンセーショナルであり大衆の関心を引いた出来事であったかが伺い知れる。


第二のパート、スクリーンには主にその当時の事件の様子を検証していくフィルムが投影されていた。フィルムは『狼達の午後』に使われた映画セットを再構築し、犯人がどのような状況で銃を構え、行員を脅し、現金を手にしたか、当時の犯人が、その他銀行員や警察役の役者を交えながら当時の様子を再現していった。そして時折、解説を補うかのようにその当時のニュース映像や『狼達の午後』が挿入される。如何に彼の記憶が映画によって書き換えられたかが立証されていった。


そして第三のパート、事件の様子を当時の関係者へのインタビューを中心としたワイドショーの様子を映したテレビモニターだった。画面には、銀行強盗に入られた当時そのとき何を感じたか、性転換手術を施したインビューワー、彼の実際の結婚相手へのインタビューが上映されていた。

その様な断片から、私たちは又この事件を第3の記憶として追体験するのだ。

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ちなみに、インスタレーションは無理ですが、映像だけならここで見れます。
さすがubu!!
http://www.ubu.com/film/huyghe_memory.html

これを機に『狼達の午後』が見たくなった。